ATD26 Penn GSEで得た学び:組織は組織図で壊れるのではない——経営変革に必要な3つの層
- 吉田 裕美子

- 6月10日
- 読了時間: 9分
更新日:6月12日
ATD26で参加したPenn GSEの深い学び
ATD26で、ペンシルベニア大学 教育大学院、Penn GSE(University of Pennsilvania Graduate School of Education)によるセッション「Leaders as Architects of Change」に参加しました。
ペンシルベニア大学は言わずと知れた名門大学ですが、私は、友人のKane Nakamuraさん(https://www.linkedin.com/in/kane2008/ )がPenn GSEの卒業生であることから興味を持ち、今回、ぜひこのセッションに参加したいと思っていました。
Penn GSEは、教育・学習・リーダーシップ開発の分野において世界的に評価の高い大学院です。その講義に参加できたこと自体が大変貴重な機会でしたが、何より印象的だったのは、そこで語られていたリーダーシップと組織変革の捉え方の深さでした。
講義の中心にあったのは、これからのリーダーは単に変化を管理する存在ではなく、変化に適応し、学習し、成長し続ける組織の条件を形作る存在である、という考え方です。Penn GSEの資料では、現代のリーダーは「変化の指揮官」ではなく、変化にしなやかに適応できる組織の条件を設計する「architect」として位置づけられていました。
この考え方は、Penn GSEのセッションで紹介された書籍、『Leaders as Architects of Change』の中核的なメッセージでもあります。

参考:Routledge “Leaders as Architects of Change” https://www.routledge.com/Leaders-as-Architects-of-Change-Designing-Organizations-for-Connection-and-Resilience-in-Times-of-Uncertainty/Ravitch-Krishnamoorthy/p/book/9781041023920
この視点は、私たちHyper-collaborationが日本企業の経営変革に向き合う中で考えてきたことと、驚くほど重なっていました。
リーダーは、変化の管理者ではなく設計者である
多くの日本企業が、いまデジタル時代への経営転換に取り組んでいます。
AI活用、DX推進、アジャイル導入、人的資本経営、リスキリング、組織風土改革。さまざまな取り組みが進められています。
しかし、現場では次のような壁に直面することが少なくありません。
・ DXを進めても、意思決定のスピードが変わらない。
・ アジャイルを導入しても、チームが自律的に学習しない。
・ リーダーシップ研修をしても、日常のマネジメント行動が変わらない。
・ 組織図を変えても、部門間の壁や情報の流れは変わらない。
つまり、経営変革は制度や構造を単体で変えるだけでは進まないのです。
組織は組織図で壊れるのではない
この点について、Penn GSEの講義で示された一枚のスライドが非常に印象的でした。
そのスライドには、こう書かれていました。
Organizations don't break at the org chart. They break at three nested levels — and they must be redesigned at all three.
組織は、組織図で壊れるのではない。
組織は、3つの入れ子構造のレベルで壊れる。
そして、その3つすべてを再設計しなければならない。
その3つとは、以下の層です。

中核にある1つ目は、The Leader。
リーダー個人の認知、感情、学習力、意思決定のあり方。
2つ目は、Team Architecture。
チームがどのように対話し、学習し、意思決定し、実験するか。
3つ目は、Org Design。
組織全体の構造、制度、情報の流れ、戦略と実行をつなぐ仕組み。
Penn GSEの資料では、組織は組織図ではなく、この3つの入れ子構造で機能不全に陥るため、3層すべてを再設計する必要があると示されています。
これは、非常に深い示唆でした。
なぜなら、多くの組織変革は、この3つのどれか1つだけに偏ってしまうことが多いからです。
第1の層:The Leader —— 自分の前提を問い直せるか
第1の層は、リーダー自身です。
デジタル時代の経営環境では、過去の成功体験がそのまま通用するとは限りません。むしろ、過去に成果を出してきた思考様式やマネジメントの癖が、変化への適応を妨げることがあります。
Penn GSEの講義では、リーダーの盲点として「Cognitive Arrogance」、つまり認知的な傲慢さが取り上げられていました。リーダーが古いメンタルモデルに依存していると、悪い意思決定をするだけでなく、そもそも変化やディスラプション(Disruption)を正しく認識できなくなる、という指摘です。
これは、日本企業にとっても非常に重要な論点です。
変革が進まない理由は、リーダーが努力していないからではありません。多くの場合、リーダー自身が、これまでの成功を支えてきた前提から自由になれないのです。
だからこそ、デジタル時代のリーダーには、知識やスキルの追加だけではなく、自己認識、感情知性、学習の敏捷性、そして自分の前提を問い直しながら発揮する高度な柔軟性が求められます。
講義では、破壊的な変化に直面したとき、私たちはしばしば二項対立に陥ると指摘されました。たとえば、「安定性を守るのか、革新を進めるのか」「統制するのか、現場に委ねるのか」といった問いです。
しかし、デジタル時代の経営では、どちらか一方を選ぶだけでは不十分です。安定性を担保しながら、同時に革新的なことをスピーディーに進める必要があります。
そこで示されたのが、「Which When」という考え方でした。
重要なのは、どちらが正しいかではなく、「いま、この状況では、どちらをどの程度選ぶべきか」を見極めることです。
第2の層:Team Architecture —— チームは組織が学習する単位である
第2の層は、チームです。
多くの企業では、個人の能力開発に大きな投資をしています。リスキリング、研修、資格取得、1on1、コーチング。どれも重要です。
しかし、個人が学んでも、チームの中で対話されず、実験されず、意思決定や業務プロセスに反映されなければ、組織の力にはなりません。
Penn GSEの資料には、非常にインパクトのある強いメッセージがありました。
Most organizations invest in individual capability. But organizational performance is a team-level phenomenon. The unit of analysis is wrong. Reskilling individuals in fragmented teams does not produce adaptive organizations. The team is not where work happens. It is where the organization learns to work differently.
多くの組織は個人の能力開発に投資している。しかし、組織のパフォーマンスはチームレベルで生じる現象である。
分析の対象が間違っている。分断されたチームの中で個人のスキルアップを図っても、適応力のある組織は生まれない。
チームは、単に仕事をこなす場所ではない。組織が新しい働き方を学ぶ場所である。
チームは「組織学習の主要な単位」である。
これは、私たちが日本企業の現場で見てきたこととも重なります。
変化の兆しは、経営会議ではなく、顧客接点や開発現場、営業現場、サービス運用の現場で最初に現れます。その兆しをチームが拾い、対話し、実験し、学びに変えることができるか。
ここに、デジタル時代の競争力の大きな差が生まれます。
第3の層:Org Design —— 戦略を実行可能にする組織の設計
第3の層は、組織設計です。
ここでいう組織設計とは、単に部署をどう分けるか、誰をどのポジションに置くかという意味ではありません。
戦略、意思決定、情報の流れ、人材の配置、評価、権限、テクノロジー、学習の仕組みをどのように接続するかという、経営のアーキテクチャそのものです。
Penn GSEの資料では、エドガー・シャインの言葉を引用し、「組織は外部環境に適応することと、内部を統合して実行することの両方を求められる」と示されています。そして、「多くの組織は戦略が間違っているからではなく、その戦略を前に進める内部能力が不足しているために失敗する」と記されていました。
これは、DXにもそのまま当てはまります。
優れたデジタル戦略を描いても、意思決定が遅く、部門間で情報が分断され、現場が学習したことが経営に戻らない組織では、変革は進みません。
組織図を変えるだけでは足りない。
組織が学習し、適応し続けるための構造を設計する必要があるのです。
この3層構造を見たとき、私は大きな驚きと同時に、深い納得を覚えました。
なぜなら、この構造は、私たちHyper-collaborationが日本企業の経営変革に向けて提供しているマネジメントモデルと、非常に近いものだったからです。
もちろん、Penn GSEの講義は私たちのサービスそのものを説明していたのではありません。しかし、そこで示された構造を見たとき、私たちが日本企業の現場で向き合ってきた課題と、非常に深く重なっていることに驚きました。
Hyper-collaborationがチャレンジしてきたこと、 これからもチャレンジしていくこと

私たちは、デジタル時代の経営変革には、上の図に表した次の3つの層への同時アプローチが必要だと考えています。
Penn GSEの3層 | Hyper-collaborationの対応領域 |
The Leader | EQリーダーシップ開発 |
Team Architecture | アジャイルチームマネジメント変革 |
Org Design | アーキテクチャ思考で推進するDX / サービスモデリング / エンタープライズアーキテクチャ |
リーダー個人の認知と行動を変える。
チームが学習し、実験し、成果を生み出す構造をつくる。
組織全体の設計を、デジタル時代に適応できるものへ変える。
この3つがつながって初めて、経営変革は実行可能になります。
Penn GSEの講義は、私たちが日本企業の現場で見てきた課題を、より高い抽象度と学術的背景をもって示してくれたように感じました。
日本企業にとって、この示唆は非常に重要です。
DXは、単にデジタルツールを導入することではありません。
AIを使うことでも、システムを刷新することでも、アジャイルイベントを導入することでもありません。
変化を検知し、意味づけし、実験し、学習し、組織の仕組みへ反映し続ける、本質的なデジタル時代の経営へ移行することです。
そのためには、3つの層のつながりを同時に見ていかなければなりません。
(肩書きとしてのリーダーではなく)各階層のリーダーが、自分の前提を問い直せるか。
チームが、対話し、実験し、学習できるか。
組織が、学びを戦略・構造・意思決定に反映できるか。
この3つのどれかが欠けても、変革は途中で止まります。
だからこそ、経営変革には「3つの層」を統合的に設計する視点が必要なのです。
今回、ATD26でPenn GSEの講義に参加できたことは、私にとって非常に大きな学びでした。世界トップクラスの教育機関が、リーダーシップと組織変革をここまで深く、構造的に捉えていることに強い刺激を受けました。
同時に、私たちがHyper-collaborationマネジメントモデルとして取り組んできたことが、世界的なリーダーシップ開発の文脈とも重なっていることに、大きな勇気をもらいました。
組織は、組織図で壊れるのではない。
そして、組織図を変えるだけで変わるのでもない。
“Leaders as Architects of Change”
リーダーが変わり、チームが学習し、組織がその学びを構造に反映する。
この3つの層をつなぐことが、デジタル時代の経営変革の核心なのだと、今回の学びを通じて改めて感じました。
私たちはこの学びを、日本企業のデジタル時代の経営変革に、より深く、より実践的に活かしていきたいと思います。
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