作業療法の世界②―心とからだと作業―
- 木村奈緒子

- 5 日前
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更新日:3 日前
こんにちは。作業療法士の木村です。
前回は、「その人らしく生きること」を支える作業療法についてお話ししました。
その中で、「自分にとって大切なことができていること」そのものが健康である、という考え方をご紹介しました。
では、その「大切な作業」は、どのようにして成り立っているのでしょうか。
あなたにとって大切な作業は、何ですか。
それは、気持ちが落ち込んでいるときでもできるでしょうか。
あるいは、体が思うように動かないときでも、同じようにできるでしょうか。
今回は、「心」と「からだ」、そして「作業」の関係について考えていきたいと思います。
ある患者さんのお話
ある高齢の女性が、足を骨折して入院していました。
一人でトイレに行くこともできません。
「もう自分は二度と歩くことはできないかもしれない」
そんなことが頭をよぎり、ふさぎ込んでしまって、布団から起き上がることができなくなっていました。
そこはリハビリの専門病院でしたので、リハビリをしないと始まりません。様々なスタッフが入れ替わり立ち替わり、毎日リハビリに誘うのですが、なかなかうまくいきません。布団をかぶって拒否なのです。
身の回りの様子からは、大変裕福であることが感じられ、ご家族の気遣いも垣間見えました。
あるとき、棚にシャネルのNo.5の香水の箱が置かれていることに気が付きました。
「この香水、どうしたのですか?」
と興味を持ってお聞きすると、かぶっていた布団から顔を出して話をし始めました。
「好きなのよ、昔はよくつけていたわ」
こんなにご自分のことを話すのだと、驚きました。
少し図々しいかなと思いながらも、
「においを嗅いでもいいですか?」
「わあ、いい匂い」
「絶対病院では嗅げない香りですね」
と、ついこちらが盛り上がってしまっていたのですが、その高齢女性が、
「私もにおいを嗅ぎたいわ」
そう言って、体を起こそうとするではありませんか。
今まで何を言っても起きなかった人が。
ようやく起き上がってにおいを嗅ぐと、彼女がとてもおしゃれに気を使い、シャネルの香水を愛用していたことが分かりました。その時は、彼女の表情も緩んでいました。
「少し起きてみませんか?」
「香水をつけて、外に出てみましょう。」
これが彼女の離床のきっかけとなりました。
彼女にとって、香水をつけることは、自分らしく存在するための作業だったのだと思います。
心が動けば体が動く
そうやって彼女はリハビリに向かえるようになり、順調に回復して自宅に戻っていきました。
何かをやるためには、体が動くだけではなく、心が動かないといけません。
逆に言うと、心が動くと体が動いていくのです。
では、ここで考えてみてください。
もし、
体は元気に動くようになったとしても、
やることが何もなかったらどうでしょうか。
あるいは、
仕事ばかりで休む時間がなかったら。
逆に、
休んでばかりで、やりがいや楽しみがなかったら。
ここで重要になってくるのが、「作業バランス」という考え方です。
作業バランスー仕事・休息・遊び
作業療法では、
「仕事」「休息」「遊び(楽しみ)」といった生活のバランスが重要と考えられています。
どれか一つだけではなく、それぞれが適度にあること。
それが、心とからだの健康を支えています。
先ほどの患者さんも、ただ歩けるようになることだけが大切だったわけではありません。
香水をつけること
おしゃれを楽しむこと
外に出ること
そうした作業がつながって、その人らしい生活が少しずつ戻っていったのです。
私たちは日々、さまざまな「作業」に囲まれて生きています。
しかし忙しさの中で、
「自分にとって大切なこと」が後回しになってしまうことも少なくありません。
あなたにとって、
心が動く作業は何でしょうか。
そして、
その時間はきちんと生活の中にありますか。

