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作業療法の世界②―心とからだと作業―

更新日:3 日前

こんにちは。作業療法士の木村です。

前回は、「その人らしく生きること」を支える作業療法についてお話ししました。

その中で、「自分にとって大切なことができていること」そのものが健康である、という考え方をご紹介しました。

 

では、その「大切な作業」は、どのようにして成り立っているのでしょうか。

あなたにとって大切な作業は、何ですか。

それは、気持ちが落ち込んでいるときでもできるでしょうか。

あるいは、体が思うように動かないときでも、同じようにできるでしょうか。

今回は、「心」と「からだ」、そして「作業」の関係について考えていきたいと思います。

 

ある患者さんのお話

 

ある高齢の女性が、足を骨折して入院していました。

一人でトイレに行くこともできません。

「もう自分は二度と歩くことはできないかもしれない」

そんなことが頭をよぎり、ふさぎ込んでしまって、布団から起き上がることができなくなっていました。

 

そこはリハビリの専門病院でしたので、リハビリをしないと始まりません。様々なスタッフが入れ替わり立ち替わり、毎日リハビリに誘うのですが、なかなかうまくいきません。布団をかぶって拒否なのです。

 

身の回りの様子からは、大変裕福であることが感じられ、ご家族の気遣いも垣間見えました。

あるとき、棚にシャネルのNo.5の香水の箱が置かれていることに気が付きました。

「この香水、どうしたのですか?」

と興味を持ってお聞きすると、かぶっていた布団から顔を出して話をし始めました。

「好きなのよ、昔はよくつけていたわ」

こんなにご自分のことを話すのだと、驚きました。

少し図々しいかなと思いながらも、

「においを嗅いでもいいですか?」

「わあ、いい匂い」

「絶対病院では嗅げない香りですね」

と、ついこちらが盛り上がってしまっていたのですが、その高齢女性が、

「私もにおいを嗅ぎたいわ」

そう言って、体を起こそうとするではありませんか。

今まで何を言っても起きなかった人が。

ようやく起き上がってにおいを嗅ぐと、彼女がとてもおしゃれに気を使い、シャネルの香水を愛用していたことが分かりました。その時は、彼女の表情も緩んでいました。

 

「少し起きてみませんか?」

「香水をつけて、外に出てみましょう。」

これが彼女の離床のきっかけとなりました。

彼女にとって、香水をつけることは、自分らしく存在するための作業だったのだと思います。

 

心が動けば体が動く


そうやって彼女はリハビリに向かえるようになり、順調に回復して自宅に戻っていきました。

 

何かをやるためには、体が動くだけではなく、心が動かないといけません。

逆に言うと、心が動くと体が動いていくのです。

 

では、ここで考えてみてください。

もし、

体は元気に動くようになったとしても、

やることが何もなかったらどうでしょうか。

あるいは、

仕事ばかりで休む時間がなかったら。

逆に、

休んでばかりで、やりがいや楽しみがなかったら。

 

ここで重要になってくるのが、「作業バランス」という考え方です。


作業バランスー仕事・休息・遊び


作業療法では、

「仕事」「休息」「遊び(楽しみ)」といった生活のバランスが重要と考えられています。

どれか一つだけではなく、それぞれが適度にあること。

それが、心とからだの健康を支えています。

先ほどの患者さんも、ただ歩けるようになることだけが大切だったわけではありません。

香水をつけること

おしゃれを楽しむこと

外に出ること

そうした作業がつながって、その人らしい生活が少しずつ戻っていったのです。

 

私たちは日々、さまざまな「作業」に囲まれて生きています。

しかし忙しさの中で、

「自分にとって大切なこと」が後回しになってしまうことも少なくありません。

あなたにとって、

心が動く作業は何でしょうか。

そして、

その時間はきちんと生活の中にありますか。

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