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正解の先へ進むために── 元富士通役員・宮田一雄さんが、いま改めて「学び直す」理由 ── Hyper Leaders’ Boot Camp 第2期 参加者インタビュー



Hyper Leaders’ Boot Camp 第2期。4週間にわたるプログラムを終えたあとに行われた今回のインタビューは、受講者の学びをふりかえる場ではありませんでした。そこには、AI時代においてリーダーとは何者であるべきか、日本のマネジメントはどこで立ち止まってしまったのか、そして「経験」はどのように次の世代へ手渡されうるのかという、重く、しかし避けて通れない問いについての対話がありました。

話し手は、富士通で長年にわたり事業・組織・人材育成の最前線を歩んできたハンブルマネジメント代表の宮田一雄さん。聞き手を務めたのは、Hyper Leaders’ Boot Camp のメインファシリテータであり、Hyper-collaborationエバンジェリスト、ネスレ日本の高田耕造さんです。

「正直、とんでもない方に話をしていたんだなと・・・」

インタビューは、高田さんの率直な言葉から始まりました。


高田さんはこう語ります。「実は今日、生成AIで宮田さんのことをディープリサーチしてきたんです。正直に言うと……ブートキャンプ中、こんなすごい方に普通に話しかけていたんだなと、後からちょっとゾッとしました。もし事前にここまで調べていたら、緊張しまくってブートキャンプはうまく回せなかったかもしれません」


その言葉に対し、宮田さんは静かに笑いながら応じます。

「いやいや、逆です、逆です」


このやりとりが象徴しているのは、肩書きや上下関係ではありません。同じ時代を生きる実践者同士としての関係性です。今回のインタビューは、終始その雰囲気で進んでいきました。


「自分のやってきたことは、もう役に立たないのではないか・・・」

「そもそも、なぜ今回このブートキャンプに参加しようと思われたんですか?」


宮田さんは、少し間を置いてから、これまでの歩みを振り返るように語り始めました。富士通での長いキャリア。SI業界の成長期から成熟期までを、現場と経営の両面で見続けてきたこと。引退後も、SE育成や組織開発の支援に関わり続けてきたこと。


宮田さんは後継の育成のために、次のような考え方を伝えてきたと言います。チームで仕事をすること。計画を立て、1週間ごとに振り返ること。ムービングターゲットに向かって価値を創ること。そうした姿勢こそが、これからの時代に必要だと。


「10年後のキャリアビジョンを描き、言語化を進めていくトレーニングを1年ほど、複数のチームで行いました。そのうちに、みんなの目の色が変わってきました。社長や役員の前で成果も発表し、『宮田さん、ぜひこの取り組みを続けてほしい』と言われるところまでいき、僕としてもその時は強い達成感を抱いていたんです」


しかし、現実はそう単純ではなかったそうです。


「結局、現場に戻ると、何も起きないんです」


プロジェクトは相変わらず顧客主導。進捗報告中心の会議。従来型の評価軸。役員クラスに問題提起をすると、「なるほど」と理解はされます。しかし、実際の行動は変わりませんでした。


正しいことをしているはずなのに、組織は変わらない。去年から今年にかけて、達成感が感じられなくなり、『自分のやってきたことは、もう役に立たないのではないか』と思うようになっていったんです」

そのような無力感を覚えていたとき、Hyper-collaborationが掲げる「EA」「スクラム」「EQ」という三層構造での変革アプローチに出会います。さらに、高田さんがYouTubeで語っていた解説(https://youtu.be/vzFFU6-tixY)にも惹かれ、宮田さんは思い切って Hyper Leaders’ Boot Camp への参加を決めたそうです。


「問いの出し方」によって、学びの質が変わる

高田さんはあらためて尋ねました。

「実際、4週間ご一緒してみて、いかがでしたか?」


宮田さんは、迷わず答えます。

「僕が一番印象深かったのは、高田さんの問いの立て方でした。AIはプロンプト次第で回答が変わってくる。だから、どれだけ良い問いが立てられるかが鍵になる。そして、AIの力で言語の壁をやすやすと越え、欧米の論文やウェブサイトからリサーチして、世界中の知見の中から自分が興味を持っていて、学ばないといけないものを見事に抽出してくれる。圧倒的に短時間で学べるということでした」


宮田さんは自らの過去を振り返りながら、こう続けました。


「僕らの時代は経験が先にあって、理論とか知識なんか関係ないという時代でした。『仕事は人間がやってるんだ』という人が多かったし、僕自身も野中先生と出会うまではそんな感じでした。でも、野中先生と出会って、そうじゃないなって。やっぱり知識や理論をベースに学ばないと勝てない。それで経験と知識の両輪が大事だと分かってはいたけれど、膨大な知識をどうやって短時間に学べばいいのか分からなかった。今回ブートキャンプに参加して、その学び方を手に入れられた。『巨人の肩の上に乗る』ということが体得できたと思います」


修羅場で突きつけられた「現場の現実」

宮田さんが感じていた無力感の背景には、若い頃に経験した忘れられない出来事がありました。


「僕が課長になりたての頃のあるプロジェクトで、極めて優秀だった部下が、月曜の朝会社に来ないことがありました。とても明るい性格だったので何の心配もしていなかったのですが、結局、地元の警察から連絡が入り、ホテルで自ら命を絶ったという知らせだったんです。本当に、何の兆しもなかった……」


国立大学出身で、明るく、周囲からの信頼も厚かった青年でした。お母様のもとへお詫びに伺ったとき、「良い子に育ってくれました。(亡くなったホテルは実家から)二駅しか離れていなかったのに、帰ってこられなかったんですね」と言われた言葉が、今も胸に残っているとのことでした。

その後も宮田さんは子会社の社長なども務め、さまざまな現場を見てきましたが、心身を壊す人は後を絶たなかったといいます。「これは個人の問題ではなく、構造の問題だと思いました。そして、本当にこういう現場を変えていかなければならないと強く思ったんです」


TOC・CCPMとの出会い、そして理論の意味

「じゃあ、どうすれば、この現場を変えられるのか」。その問いに対して、長いあいだ答えが見つからなかったといいます。プロジェクトマネジメントをどう改善すれば、この状況を防げるのか。そんな模索の中に出会ったひとつの答えが、TOC(制約理論)とCCPMでした。


「これだ!と思いました。頑張りが足りないんじゃない。私たちは、勝てない『構造』の中で戦っていただけだったんです」


宮田さんは続けます。

「経験だけでは、組織は変えられない。でも理論があれば、共有できる」

個人でうまくいっていたやり方は、多くの場合、組織では再現されません。だからこそ理論が必要なのだと、身をもって学んだといいます。


「その時、本当の意味で野中先生のSECIモデルの価値を思い知りましたね」


組織を「細胞」として捉えるという発想

その後に出会ったのが、Hyper-collaborationの考え方でした。宮田さんが特に強く共感したのは、組織を「細胞」に見立てるメタファー*だったそうです。


細胞が「膜(境界)」「核(制御)」「網(循環ネットワーク)」によって生命を維持するように、組織もまた以下の三方向から同時に捉える必要があります。


• 組織(EA:エンタープライズアーキテクチャ)**による「構造」の設計

• チーム(Scrum)**による「効果的な行動」の実践

• 個人(EQ:感情知能)**による「自律的な心理」の醸成


この三層をバラバラではなく、細胞のように有機的に連動したものとして捉える視点が、非常に腑に落ちるものだったそうです。例えるなら、組織を「機械」としてではなく、呼吸し、代謝し、常に変化し続ける「一つの生命体」として扱うような感覚です。 構造(骨格)だけでなく、行動(筋肉)や心理(神経)が細胞レベルで連動して初めて、組織は真に生き生きと機能し始めるのです。


*Hyper-collaborationの勉強会の中で鈴木健氏による「なめらかな社会とその敵」を通じてサービスを解説する回でそのメタファーが提示されました。


「これをトータルで変えないと、結局また元に戻る。自分が感じていた違和感が、初めて整理された感覚でした。EAとスクラムは、多くの論文や書籍に触れてきて、今回のブートキャンプでも復習のように学びを深めることができましたが、EQはこれまでそれほど学ぶ機会がなかったんです。EQを知り、『感情知能』はきちんと学び、伸ばせるものだと分かったのは大きな学びでした。みんなのEQを伸ばすことは大切だなと思いましたよ。


僕がやるべきことは、その場しのぎの技術的問題を解くことではなく、寄り添って一緒に適応課題(https://www.hypercollaboration.co.jp/post/adaptiveleadership)に対峙し、変革を起こしていくことなんだなと思っています」


AIは「正解」を出す。経営は「哲学」を引き受ける

高田さんは、さらに問いを深めます。


「AIはロジカルなフレームワークを一瞬で出してくれますが、実際の経営の現場では論理的に正しいA案とB案があったとき、最後は何かで決めなきゃいけない瞬間があると思うんです。宮田さんがさまざまな修羅場をご経験されてきた中で、論理を尽くしたあとに最後に頼った勘とか直感みたいなものは、AIが提示する正解と何が違うと思いますか?」


宮田さんは迷わず答えました。

「AIが出してくれるのは正解です。でも正解には価値がない。伊丹敬之さんの言葉を借りるなら、『直感で感じ、論理で検証し、哲学で飛躍する』ことが大切なんです。世のため人のためになるか、その責任を引き受けられるか。そこにはその人が生きてきた『人生の背景』が関わってきます。これはAIにはできないことなんです」


学び直しに必要なもの

高田さんはさらに宮田さんに問いました。


「宮田さんは、失礼ながらお年を召していらっしゃいますが、同年代の方々とは比較できないくらい学びに対して真摯で、さらに好奇心を持っていらっしゃるように思います。60代、70代の人はそんなに簡単に『アンラーン(既存の思考OSの放棄)』できないと思うんです。そして今回のブートキャンプで体験していただいたように、僕らはいま、これまでにない変化の時代に生きています。たとえば、海で泳ぐのが得意だった人魚が、いきなり陸に放り込まれるような変化です。そういう現場で苦しさを感じている人たちに、宮田さんならどんな声をかけますか?」


宮田さんはこう答えました。

「みんなキャリアビジョンってあんまり考えてないんですよね。自分が5年後、10年後どうあるべきか、どうありたいのか。そこがないと、今の仕事を一生懸命こなすことの繰り返しになってしまう。そうするとアンラーンは難しい。だから、パーパスやビジョンについて考え、抱くことが大切だと思います」


ここで高田さんは、話題をもう一段深いところへ運びます。


「AIって、なるべく『中央値の正解』を出そうとしますよね。でも現実の仕事は、矛盾を矛盾のまま抱えながら、白黒つけずに前へ進む場面が多い。そういう『白黒つけない強さ』が、これからますます重要になる気がしています。

日本で言う『清濁併せ呑む』みたいな実践は、宮田さんの世代が、正解も定石もないSI業界の黎明期でやってこられたこと。今、AIが正解を提示してくれる時代だからこそ、そうした力は『昭和的』と切り捨てるのではなく、見直されるべきなんじゃないかと思うんです」


宮田さんはそれに力強く答えます。

「その通りだと思いますね。現代では本来、境界を作れないものに対して、無理やりルールで境界を引こうとしている。AIの著作権問題もそうで、もっと上位に倫理観があれば解ける問題も、ルール化したほうが楽だからそうしてしまう。

マネジメントは、本来は曖昧なところを自分が判断して『良い方』に引っ張る責任があるはずなんです。でも今は『ルールに従うこと、従わせること』がマネジメントだと思っているマネジャーが多い。本当はベテランほど、リスクを引き受ける判断ができるはずなのに、形式知として学んでいないから論理的に語れない。だから今回のブートキャンプみたいに理論を、過去の論文も取り入れて学ぶことで、『これ、俺がやってきたこと』と気づける機会があると、経験を言葉にできるようになるんです。そういう意味でも、良い学びの機会をいただきました」


さらに宮田さんは、現場への期待についても言葉を重ねました。

「今までって日本の現場力が強いがゆえにトップが変えようとしても現場が抵抗して変えて来られなかった。そんなものづくりの時代から、今はだいぶ変わってきている。こんなふうに生成AIを活用しながら現場の人たちがそういう観点に変えていけばチャンスはあるなって思いますよね。若い世代が、もう少し楽に、誇りを持って働けるように。そのために、自分の経験を翻訳して手渡したい。だから、学び続けています」



正解が手に入りやすくなるほど、判断が軽くなるわけではありません。むしろ最後に残るのは、曖昧さの中で決める責任です。宮田さんの過去の経験を紐解き、それを現代に活かすことをテクノロジーが支援するという、新しい協働の姿を言葉にしていただいた今回のインタビューは、これからのリーダー像やマネジメントの在り方を考えるうえで、多くの示唆を残す時間となりました。

 

編集・構成:寺嶋広明


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