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なんとなくが消えた日:東芝デバイス&ストレージの技術者が手に入れた「発想を言語にする力」


左:三本木 晶子さん        右:糸賀 尚子さん
左:三本木 晶子さん        右:糸賀 尚子さん

Hyper-collaborationが東芝デバイス&ストレージ株式会社様にご提供している「ロジカルコミュニケーション研修」について、共同開発者であり、現ファシリテータの三本木さんと、事務局を務める糸賀さんに、研修誕生の背景、設計思想、現場での変化、そして今後の展望についてお伺いしました。

(インタビュアー:神田ゆりあ)



目次

研修の概要

神田(Hyper-collaboration):

糸賀さん、三本木さん、こんにちは。本日は、当社Hyper-collaborationが東芝デバイス&ストレージ(TDSC)様にご提供している「ロジカルコミュニケーション研修」についてお話を伺います。事務局として研修の社内展開と品質向上に尽力されている糸賀さん、そしてこの研修の開発者であり、現在はファシリテータとして活躍されている三本木さんにお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。


糸賀・三本木:よろしくお願いします。


神田:まずは糸賀さんから、この研修の概要をご紹介いただけますか?




糸賀(TDSC):

はい。「ロジカルコミュニケーション研修」は、東芝デバイス&ストレージ株式会社で2019年からスタートした若手社員向けの研修です。研修開始前の課題や導入経緯については後ほど三本木さんから詳しくお話しいただきますが、これまでに5年間継続して実施し、延べ250名以上が受講しています。

事務局としては、「しっかりと考え、ロジカルにコミュニケーションできる力とツール」を、社内の共通財産として根付かせるべく、研修の継続と拡大に努めています。また、2023年に社内の評価制度が変更された際にも、本研修が新制度と適合しているかをきちんと検証しました。実務に直結する題材を用い、さらにこの研修が契機となった改善事例も積極的に取り入れることで、受講者にとって実践的かつ価値ある学びの場となるよう工夫を重ねています。


神田:ありがとうございます。

研修の背景(研修誕生のきっかけ:2018年)

神田:では、少し時をさかのぼり、研修が誕生した当時のお話を伺います。三本木さんは、当時教育担当として、現場育成にどのような課題を感じていましたか?


三本木(元TDSC):

TDSCでは、若手社員が単に与えられたタスクをこなすだけでなく、顧客ニーズをくみ取り新たな事業を創出していく力を身につけることを目指し、「課題解決力」「人間力」「専門力」の向上を目的としたワークアサインメント期間(以下、WA期間)を設けて若手技術者の育成に取り組んでいます。専門力についてはOJTによるメンター制度がありましたが、「課題解決力」と「人間力」を育む機会は不足していると感じていました。さらに当時の研修は座学中心で、受講者もどこか受け身で参加している印象がありました。



神田:そこで、私たちにご相談いただいたんですよね。


三本木:はい。神田さんが取り組んでいた「教育のためのTOC」プログラムを、当社向けにカスタマイズしてチーム内コミュニケーションを促進するというアイデアを聞いたとき、これだ!と思いました。「課題解決力」「人間力」向上は専門力発揮の土台で、その機会が不足するということは例えるなら、栄養も水も少ない、耕されていない荒地のようなものだと感じていました。その中でリーダーやマネジメント層になられているのは“野生種のトマト”のような、手をかけなくても育った方たちという印象だったんです。でも、組織が成長するには、チームとして全員に可能性を発揮してもらう必要がある。人材育成や組織開発は、全員が成長できるような“畑”を用意するべきだと感じていました。

「教育のためのTOC」は、個人的に良い取り組みだと思っており、社内で草の根的に広めていましたが、正式な教育プログラムとしては定着していませんでした。そこで、WA期間の中にこのプログラムを組み込むアイデアは非常に魅力的に映りました。


神田:その後、TDSC内の課題をしっかり言語化し、その解決につながるプログラムとするため、上長へのヒアリングもしていただいて、それを元に何度もディスカッションしましたよね。


三本木:そうですね。当社の社員は基本的に技術が大好きで、自分の開発業務に没頭する傾向が強いと私は感じていました。それ自体は悪いことではないのですが、チームで新しい価値を生み出していくには、やはりコミュニケーション力が不可欠です。実際、社員もコミュニケーションの重要性は意識していましたが、それを高める施策が十分ではありませんでした。だからこそ、組織的な取り組みとして研修を導入する意義があると考えました。


神田:そして三本木さんが上長に掛け合い、まずはトライアル実施が決まったのですね。


三本木:はい。神田さんにファシリテータをお願いして、プログラムのトライアルを実施しましたね。


神田:その際は受講者だけでなく、多くの関係者がオブザーブに訪れ、少し緊張しました(笑)。


三本木:ええ(笑)。


糸賀:私も当時オブザーブさせていただきましたが、「これは良いプログラムだ」と感じました。私の上長も同席しており、結果的にWAの正式な施策として組み込むことが承認され、翌年度からの予算化も実現しました。


研修の目的と特徴(研修の成長と変化:2019〜2021年)

神田:ロジカルコミュニケーション研修を設計する中で、特にこだわったポイントはどこでしょうか。


三本木:大きく3つあります。

1つ目は「相手は自分と異なる思考をしている」ことを理解すること。

2つ目は「対象者1人ではなく、メンターとペアで参加する」こと。

3つ目は「実践的なテーマで職場の課題解決能力を高める」ことです。


神田:では、順に伺っていきます。まず1つ目の「相手は自分と違う思考をしている」という点について教えてください。


三本木:はい。コミュニケーションでは、相手に関心を持ち、相手が言語化できていない思考や価値観にも耳を傾ける姿勢が重要です。本研修ではそのためのツールを用い、丁寧に言葉を重ねて相手の考えを理解する方法を学びます。たとえばテキストの表紙にも使っている「氷山モデル」は、見えていない部分を理解しようとする大切さを象徴しています。

また、CLR(※1)という問いかけの手法を活用することで、「自分はわかるが相手には伝わらない」という状況を解消できます。これにより、話がクリアになり、報告書作成や特許執筆といった実務にも役立つと考えています。


神田:続いて2つ目の「ペアでの参加」についてはいかがですか。


三本木:やはり職場で実践するには、1人だけではなく、理解を共有できる相手が必要です。そのため、メンターとメンティーがペアで参加するスタイルを採用しました。これにより、職場に戻った際も学んだ内容を活かしやすくなります。


神田:3つ目の実践的なテーマについてもお願いします。


三本木:はい。職場で関わること、関心が持てることを研修のテーマにすることにこだわりました。実務に関係ない題材では「研修での話」と片付けられがちですが、実際の業務と結びつけることで、学んだことをすぐに現場で活用しやすくなります。研修という時間を使い、落ち着いて職場の課題を振り返る場とすることを意識しました。


神田:糸賀さんは、事務局としてどのような点にこだわりましたか。


糸賀:まずは上司への報告です。受講者がどんな研修を受けているかを上司が知らないケースも多いと聞きますが、実は上司がどれだけ関心を持っているかによって研修効果は大きく変わります。そのため、上司への「お手紙」を企画し、受講者を送り出す際や戻ってきた際に「研修どうだった?」と声をかけてもらえるように工夫しました。

また、もう1つは、研修を通じて生まれた改善事例を次回以降の研修で取り上げるサイクルです。研修後、受講者が実務で取り組んだ課題解決事例を事務局が発表することで、参加者にとって身近な成功例となり、学びをより前向きに捉えてもらう工夫をしています。


研修の効果

神田:研修を通じて、受講者にはどのような変化が見られましたか?


糸賀:まず、「積極的に意見を言えるようになった」点が挙げられます。あるペアの例ですが、異動してきたばかりのメンティーは、メンターに「これはどうしたらいいですか?」と指示を仰ぐスタイルが習慣になっていました。メンター側もそれを当然と捉えていたそうです。しかし、この研修でフレームワークを活用し、思考のプロセスを共有することで2人の関係性が変わりました。研修後、メンティーは「こういう背景があるので、私はこう考えていますが、どう思いますか?」と意見を交えた質問ができるようになり、メンターもその意見を取り入れるなど、双方向のコミュニケーションが生まれるようになりました。


神田:まさに関係性の質が変わったわけですね。


糸賀:そうですね。それに加え「論理的に考え、説明できるようになった」という点も重要です。「なんとなく伝わるだろう」ではなく、きちんと「発想を言語化する」ことの大切さを実感していただいた例だと思います。


神田:2021年にTDSCを退職され、その後私たちから委託する形で、この研修のメインファシリテータを担当してくださっている三本木さんから見えている効果などあったら教えてください。


三本木:技術力はもちろん必要ですが、それを社内外に届けるには、相手に伝わるよう論理的に説明し、相手の考えを理解する力も欠かせません。これは私が在籍中にとても強く思っていたことです。この研修を始める前までは「とにかく頑張れ」という精神論になりがちな印象を覚えていましたが、研修を通じて効果的な考え方を学ぶことで、複雑な問題に対しても的確に対応できるようになっているのではないかと思います。そして、限られた時間の中で本当に必要なことに集中し、成果につなげる力を身につけられる点は、多くの受講者にとって価値のある学びになっていると思いますし、そうであるために私の特徴としてかつて同じ組織の中にいた経験がある人間がファシリテーションをするということで研修の価値を高める努力をしています。


神田:技術と論理的な伝達力の両輪ですね。そして社内専門用語などをプログラムの中に織り交ぜることができるのはTDSC出身の三本木さんだからできることだと実感しています。最後に、「職場での課題解決能力の向上」についても教えてください。


糸賀:はい、研修を通じて、実際の職場課題を乗り越えた好例があります。


施設管理部では、ドラム缶の保管本数を巡って、納入担当者と安全管理部門の間で意見が対立していました。納入担当者は、業務効率化とコスト削減のため、60本をまとめて保管したいと考えていました。一方、安全管理を担う部門では、「20本以上は安全上難しい」という理由から、それに反対していました。

双方の立場は平行線をたどり、当初は妥協案として中間の40本で折り合うのが現実的だと思われていました。しかし、この研修で学んだ対立構造解消のフレームワーク「クラウド」を活用し、改めて両者の意見を整理してみたことで状況が変わります。両者に共通する真の目的が見えてきたのです。それは「製造工程に影響を与えず、適切に廃棄物を処理したい」という点でした。

この気づきによって、「単なる妥協」ではなく「本当に安全かつ効率的な60本保管の方法」を模索する方向に議論が進みました。職場に戻った後は、新たなアイデアを出し合い、結果的に安全性を確保しつつ60本を保管する方法を実現することができました。これは社内報にも掲載された事例となりました。

この事例は、ロジカルコミュニケーション研修が、単にツールを学ぶ場ではなく、実際の業務課題を解決する力や関係性の変革を生み出す機会になっていることを象徴しています。


人材育成のさらなる展開

糸賀:当初はメンティーとメンターのペアを対象とした研修としてスタートしましたが、それだと自分がメンティーやメンターにならない限り受講の機会が得られない、という課題がありました。この研修は若手育成にとどまらず、もっと多くの社員にとって有益だと感じていましたので、「この会社のために私たちができることは何か?」と考え、より幅広い方に参加いただける形にすることにしました。

その結果、2022年からは一定の割合でオープン参加枠を設け、メンティー・メンターの関係に関わらず、希望者が受講できるようにしました。これにより、より多くの社員がロジカルコミュニケーションを学び、職場全体にそのスキルが広がるよう工夫しています。


どんな企業の方にこの研修をお勧めしたいか

神田:現在、TDSC内ではかなり多くの職場に研修が広がってきていますが、他の企業や業種でも活用できそうですね。どのような会社や職場に、この研修をおすすめしたいとお考えですか?


糸賀:まずは製造業の若手社員の方々ですね。私たち製造業では、多くの専門技術を持つ人たちが力を合わせ、1つの大きなものづくりを行っています。そのため、誰か1人だけで完結する仕事はほとんどありません。チームで協力し、幅広い人とロジカルにコミュニケーションを取る力がとても重要だと感じています。

特に、入社から3〜4年経ち、最初の「教えてもらう」時期を終えた若手にとっては、他部門や関係者に自分の考えを的確に伝える力が求められるタイミングです。こうした若手にこの研修を受けてもらうことで、論理的な説明力や対話力を身につけ、さらには将来的に社外の関係者ともスムーズにやりとりできる基盤を作ることができると考えています。

この意味では、製造業に限らず、様々な人と関わりながら仕事を進める必要がある職場や業界でも十分に有効だと思います。


神田:なるほど。若手の成長フェーズや多様な人との協働が必要な現場に、特にフィットするわけですね。


三本木:そうですね。私としては加えて、組織全体の学習文化を醸成したい企業にもおすすめしたいです。「コミュニケーション研修ならすでにやっている」という企業も多いと思いますが、この研修は単なる関係構築ではなく、「目的思考」を重視した内容です。つまり、仕事の価値を高め、世の中に価値を届けるためのコミュニケーション力を養うことに焦点を当てています。

現状の研修が「仲良くなるところで止まっている」と感じている場合や、もっとチームの力を引き出したいと考えている組織にこそ、このプログラムは役立つと考えています。


糸賀:2025年度もさらに内容を良い研修にしてご提供していきたいと思っていますので、ご協力よろしくお願いいたします。


三本木、神田:こちらこそよろしくお願いいたします。


※1 CLR:Categories of Legitimate Reservation

「明瞭性」「存在」「因果関係」「十分性」の4つの視点で論理性の検証をする考え方

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