「ハイパー・チームマネジメント」というサービスが誕生するきっかけは、2021年の1月〜3月にかけて行われた大和ハウスグループの大和ハウス工業株式会社(以下、大和ハウス)、大和リース株式会社(以下、大和リース)、株式会社フジタ(以下、フジタ)でのテレワーク推進の取り組みでした。
今回の取り組みの事務局としてご一緒させていただいた大和ハウスの小林さんと鳥生さんにお話を伺いました。
(写真左から)大和ハウス 経営企画部DX推進室 小林さん
大和ハウス サスティナビリティ企画部 鳥生さん
Hyper-collaboration 代表取締役 吉田
進行:Hyper-collaboration神田
以前の働き方
大和ハウスグループでは、昨年以前はどのような働き方をされていましたか?
大和ハウス 鳥生さん(以下、鳥生):今のようにテレワークが制度化される前から、女性活躍推進の文脈で育児中社員のテレワークが大和ハウスの設計部門では試行されていました。他業種に比べてテレワークしやすいだろうと言われてやってみたのですが、実際には紙の図面に三角スケールを当てないと先に進めないことや、人が集まって一気に確認することも頻発して、チームの一部の人だけがテレワークするというのは難しいという感触でした。
大和ハウス 小林さん(以下、小林):設計に限らず、どの職場も常に目の前に関係者がいて、いつでも気軽に声をかけられるような環境にいたので、「あとで聞けばいいや」「いまタイミングがいいな」と都度判断してコミュニケーションを図っていましたね。物理的に距離が離れるとお互いに何をしているのかわからなくなるので、「出張に行くとオフィスにいないから連絡取りづらくなるよ」というのも当たり前でした。
今回、大和ハウス、大和リース、フジタの3社から7チームにこの活動をご参加いただいたわけですが、この3社は昨年以前も一緒に活動していたのですか?文化の違いなどもありますか?
小林:この3社はそれぞれ全く異なる成長をしてきたなので文化はかなり異なります。同じ設計部門でも全く違う仕事の進め方や管理方法をしているはずだと思います。
鳥生:2016年からDHG建設技術委員会人財育成分科会女性技術者活躍推進プロジェクト(以下、女性活躍推進プロジェクト)でこの5年間、3社でご一緒してきました。今回のテレワークの活動も、女性活躍推進プロジェクトとダイワハウスのテレワーク推進プロジェクトのコラボレーションで実現したんです。
2020年のテレワーク推進状況と感じた孤独感
昨年、新型コロナウィルスの感染拡大でいよいよテレワークができる環境を作らなければとなった後、どのように対策を進められましたか?
鳥生:大和ハウスではテレワーク推進プロジェクトが立ち上がり、有事の時は100%、平常時は50%のテレワーク率を目指すことになりました。最初は、PCがデスクトップしかないとか、保育園に子供を預けられないなど、特別休暇を使わざる得ない社員が少なからずいました。このまま有事が続いたら会社が機能しなくなるという危機感が大きく、まずはそういった社員の環境を整え、休ませずに済む状況にすることが最優先でした。
小林:行政からの要請もあり出社しろというわけにもいかず、待ったなしの状況でした。
テレワークできる状況になってご自身はどんな経験をされましたか?
小林:正直困ってました。関係する人は常に近くにいて、相手の表情やニュアンスを拾いながら仕事していたので、画面越し、しかもカメラもついていない状況でいったいどうしたら良いのだろう?と。1日中パソコンの前にはいましたが、孤独を感じて、体調面も整わず、心技体全てボロボロでした。
Hyper-collaboration 吉田(以下、吉田):テレワーク開始後すぐに、弊社と小林さんが所属されていたDX推進室で、「オンライン・ダイアローグ」を開始しましたね。ITリテラシー向上を目的としていましたが、対話に重点をおいたのが好評でした。皆さん口を揃えて「久しぶりにおしゃべりしました!」っておっしゃっていたのが印象的でしたね。
小林:当時は、黙々と仕事をして、誰にも見られず、やってる感もなく、達成感もなかったですね。その時の困っていた状況、感覚が今回の取り組みにつながりました。自分だけじゃなくみんなそんな状況なんじゃないかと考え続けていました。
鳥生:私は、グループ長になって半年の頃テレワークになり、毎日あれを見てください、これを見てくださいというチャットに対応するのに精一杯でした。みんなミーティングではカメラはつけないこともあり孤独は感じていたけど、みんなを不安がらせてはいけないと強く思っていました。とにかく最後の一人が「お先に失礼します」の連絡が来るまでチャットを見つづけて最後の一人が画面から出て行ってシーーンとした時に、今日も部下に頼られた充実した気持ちの一方、孤独感、徒労感もありましたね。
また当時は、上司から伝えられたことの意図が(オンラインだけでは)解釈しきれず、かと言って何度も確認はしにくくて、おろおろすることもありました。テレワークが続く中で、心理的安全性の重要性を訴える人が増え、必要以上に忖度しない、多少解釈を間違えていてもそれを口にすることを躊躇しないようにしようと、言いあえるようになっていきました。
吉田:声をかけあえることがとても大切ですよね。作りたい環境について、口に出す、その人数が増えていくことがその組織の文化を作っていくんですね。
「チームマネジメント」をサポートする仕組みがないことに気がついた
テレワークの制度、仕組みが整えられていく中で、今回の取り組みが始まったのにはどんな事情があったんですか?
小林:情報システム部、人事部、総務部などが総出で制度や仕組み、デバイスなどの環境を整えて、どんどんよくなっていくことはテレワーク推進プロジェクトで見ていても明らかでしたし、実感もありました。ただ、私が本当に困っていたのは、先ほどもお話ししたコミュニケーションをどう取っていくかだったんです。それはきっと私だけではないはずだと考えました。
せっかく何か施策をするのであれば、単に今のピンチを乗り切るだけではなく、この先に残せる物をやりたいという気持ちがありました。女性活躍推進プロジェクトの女性リーダーたちから挙がった課題レポートを手に、吉田さん、鳥生さんとお話するうちに今回の取り組みの形ができていき、この取り組みは成功する確信を感じました。このコミュニケーションの変革はDXの本質かもしれないとも思い、ぜひやろう!となりました。
鳥生:吉田さんが大阪の本社にお越しになって、小林さんとお話ししたあの会議はなんだかすごかったんですよね。ここ5年くらい女性活躍推進について3社で集まって議論していましたが、「女性だけで女性のことを語ること」に正直飽きていました。それならテレワークで生産性を上げることを狙ってみてもいいんじゃないかと提案して、3社の女性技術職が集まりテレワークによる仕事のやり難さを出し合ったら、メンバーがそれぞれ、課題に対する対策を真剣に考えて挙げてくれました。そのレポートを吉田さんと小林さんとの会議でお見せしたんですよね。そこで吉田さんが「出てきた課題を1つ1つ潰していくような対策をとってしまうと、ただでさえ忙しい方々には実践できないのではないでしょうか。オンラインで効果の出るマネジメントを学んでみては?」と提案いただきました。
吉田:あの時のレポートは、女性リーダーの方々が本当に工夫されている様子がわかるものでした。コミュニケーションをとる手段としてとても工夫をされていたのですが、どれもリーダーの負荷が高くなっていくものでした。鳥生さんのメンバーとの個別チャットに対応するのが大変だという体験談も伺って、リーダーだけが抱え込まないマネジメントに切り替えましょう、とご提案しました。
鳥生:そのご提案に「それだ!」となり、これは一気に、全社的に進めなければ!と火がつきました。
チームマネジメント変革での予想外の変化
そんな経緯を経て、今回のチームマネジメント変革の活動が始まりました。始める前の期待に対して、実際の活動はどのようにご覧になりましたか?
鳥生:女性活躍推進プロジェクトは、全社で見てもここまで課題、懸念事項を出し合って議論している集団はないという状態だったので、なんとしてもこの集団で成果を出したかったのですが、一方でやり方を変えるということに対して実践チームからの反発も想定していました。
大和リースさん、フジタさんは組織もコンパクトで前向きに捉えてくださっていましたが、大和ハウスでは今までのやり方に絶大な自信を持っている人たちもいたり、年代の幅もあったので始まる前の懸念を感じていました。実際には、それぞれの立場で手応えを感じてもらうことができ、正直「意外に柔軟じゃ〜ん」と思いました。
吉田:能力があってたくさんの仕事をこなしている方は、これまでのやり方への自負もあり、それを変えていくことのストレスは相当のものだったかもしれません。それでも週が進むごとに柔軟さが増し、各チームでの実感を重ねながら工夫してくださっている様子が印象的でした。中盤の2、3週間目にチーム内の関わりがものすごく変わってきました。オンラインでも空気が変わるのが伝わってくるんです。
1週目には、「今までちゃんとやってきたことをどうして変えなきゃいけないんですか、吉田さん!」とおっしゃっていた方が、自分だけがやっていた仕事を他のメンバーに任せるために自らチーム内をファシリテーションしながら、「ここをこう変えていきたい!」と話しているのを聞いて、とても嬉しくなりました。
鳥生:この活動を許可した役員も、進めた私も、本当に想定できない変化でした。
吉田:活動に参加したある部長さんが、「昔はこれどうしたらいい?とメンバーに聞いても反応がなかったのに、最近はアイディアがどんどん出るようになって、変化に驚いた」とおっしゃっていました。ふりかえりの時間は週に1時間で、業務時間全体の中ではごく一部なのですが、その効果はふりかえりそのものの時間ではなく、それ以外の業務時間で表れることを実感しました。
小林:私もDX推進部の立場で色々考えながら見てきました。ITの技術はどんどん進歩して、社内でも活用されてくるわけですが、その中で重要なのがコミュニケーションなんです。社内だけでなく世の中全体も複雑化する中で、自分の意思を表明する手段としてITやデジタルが活用されていくことが大切だと思います。
台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タンさんも「DXの正しい道は、みんながITを使って社会に参画していくこと」と言っています。チームの朝会のような小さな場から、「参画」が始められるという意味で、この取り組みは本当に良い活動だったなと思っています。参画の実感が業務中の孤独を癒し、次の貢献を促して文化が変わっていく活動になっていましたね。
今後の展開予定
各チームへの伴走は1月の1カ月間だけでしたが、その後も各チームでは活動が続いていてさらに展開の計画も進んでいると伺っています。どのようなご予定になっているのか教えてください。
鳥生:まず、トライアルではお借りしたツール類を社内で整えて、活動が継続、展開できるようにしたいと思っています。また、今回のトライアル結果を社内の女性活躍推進フォーラムで大々的に発表する予定です。それを聞いた方々やテレワーク推進の関連部門などにも実施範囲を広げていきたいと思います。
今回、レクチャーの中でも解説されたSECIモデルの具現化を初めて目の当たりにしました。やはり組織単位で成熟していかないと会社の成長はないと私は考えています。「自分たちの組織ならやれるぜ」という組織単位の自己効力感を持っているチームを社内で増やしていくその方法の一つとして今回の活動を展開させていきたいです。
小林:私は営業出身でもあるので、営業部門にもいい影響を与えられるプログラムにしていきたいです。営業一人であれこれやるのが以前のスタイルでしたが、最近は設計・工事とチームを組んでお客様に提案していくスタイルに変わってきています。そのためには、営業だけではなく、営業・設計・工事が一つのチームとして成長していく必要があります。それが実現できる方法なら事業所でもどんどん試してもらえるはず。本社や内勤のチームだけで対象を限定してしまうのはもったいないと考えています。想像するに、決して簡単なことではないのですが、少しずつ成功事例を作りながら進んでいきたいと思います。
吉田:それができたら業界そのものにとても大きなインパクトがありますね!建設業界に限らず、ITベンダーさんなどにも似たような構造がありますが、チームでやらなきゃとはわかっていてもなかなかできない悩みを抱える会社は多いので。
レクチャーの中でご紹介しているSECIモデルの考案者の野中郁次郎先生は、「会社というのは会話の中にある」とおっしゃります。小林さんが繰り返しおっしゃる「コミュニケーションが変わっていく」というのはまさに社内の会話を変えて会社が変わっていくことなんですね。
小林さん、鳥生さん、貴重なお話ありがとうございました。
ハイパー・チームマネジメントのサービス内容はこちらをご参照ください。
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